飛翔魔法を使って、諏訪湖上空へとやってきた。
眼下には、ヘドロの湖が広がっている。
『マスター! 風がマスターめがけて吹いてきます!』
真理の予告通りに、突風が吹いてくる。
『マスター! 毒ガスを解析した結果、結界をすり抜けてくるみたい! 気をつけて!』
真理たんナイス。
私は飛翔魔法で毒ガスから距離を取る。
『追尾してきます』
『マスター! 朱雀《すざく》の炎です!』
私は■(ボックス)を開いて、そこから、朱羽《あかはね》の炎を吐き出す。
ごぉお……! 炎が毒ガスを焼いた。
『毒ガスに朱雀の炎は有効です』
『第二波来ますよぉ!』
私は発生源へ向かって飛ぶ。
諏訪湖の中心に、神社の神主みたいな格好をした人間がいた。
だが、そいつは顔に狐のお面をつけている。
狐面の神主、あれが、神の眷属か。
「魔殺呪文《ビョウ・デ・キエリュウ》!」
眷属めがけて、魔法を放つ。
放たれた貫通光線が狐面めがけて飛んでいく。
が、光線がそいつに当たる前に、上空に軌道を変えた。
『光線がこちらに来ます!』
私の放ったはずの光線が私めがけて飛んでくる。
飛翔魔法で避けると、光線もぐぐぐ、と向きを変えてきた。
「こしゃくな!」
私はもう一発、魔殺呪文《ビョウ・デ・キエリュウ》を放つ。
二つの光線がぶつかり合って、相殺された。
防御無視の貫通魔法だ。あれ当たったら、私だってダメージくらうよねえ。
「しかしなんでビームきかなかったんだろ……?」
『情報が伏せられてます』
と天理が告げる。うーん、全知全能《インターネット》が使えないとほんと不便だわ。
『マスター! 先ほどの攻撃から、ワタクシ、敵の能力を予想しました』
「お、助かる~。真理はすごいね」
ぬえへへ、と真理がだらしなく嗤う声が聞こえる。
『……おねえちゃんかっこよき~♡』
天理もご機嫌だった。この子の性格だんだんわかってきたするわ。
『敵は【力の向きを変える能力】だと思われます』
「向き……?」
『はい。光線の軌道、風向き、どれも力の向きがあるものです。やつはその向きを自在に操れるようです』
めんどくさそーな敵。
さすが眷属ってところか。
さて、どうするか。
光線など遠距離からの攻撃は全部駄目。
向きを変えられちゃう。
「なら……直接叩く!」
私は飛翔魔法で狐面のもとへ向かう。
相手の懐まで一瞬で入る。
「神プロテクト解除! せいや!」
プロテクトを解いた本気の一撃を、狐面の腹にお見舞いする。
狐面の体が【く】の字に曲がる。
『マスター! 待避! 飛んで!』
私は真理の言うとおり、飛翔魔法で上空に逃げる。
ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
……私がさっきまでいたばしょで、大規模な爆発が起きた。
衝撃波で諏訪湖の湖が縦に割れる。
『マスターのパンチによる衝撃波の向きを、逆向きにされたようですね』
天理が解説してくれる。
直接攻撃で発生する運動エネルギーの向きを逆にしたってわけか。
「さんきゅー、真理」
真理の助言が無かったら、自分のパンチで自分でやられるところだった。
狐面を見やる。
私の腹パンを受けても元気ピンピンだった。
服が濡れているだけだ。
『遠距離からの攻撃も、近接攻撃も効かない。マスター、撤退を提案します』
『なに諦めてるんですか、天理! ここで逃げても状況は変わりません! 立ち向かっていかないと!』
真理の言うとおりだ。
「逃げるわけには、いかないね」
『……しかし、ではどうするんですか? 攻撃が完全に効かないんですよ?』
そこなんだよなー……。
「あれ……? 狐面って、なんで濡れてるの?」
『さっきのマスターのパンチによる、衝撃でふっとんだ水を頭から浴びた結果のようです』
なんで水を頭から浴びてるんだろう……?
だって狐面は、力の向きを操作できるんでしょ?
なら、上から降ってくる水滴の向きを変えて、水が自分にかからないようにできるじゃあないか。
濡れるのを、回避できるはずじゃあないか。
「真理、もしかして敵の能力って……」
私は思いついた仮説を、真理に話す。
真理は『その可能性は高いです!』と、私の推論に対して、そう意見を述べてくる。
私は右手を前に向ける。
「万象斥引力《グラビティ・フォース》!」
重力魔法のひとつ、万象斥引力《グラビティ・フォース》。
超重力を発生させ、相手を押しつぶす魔法だ。
だが、相手はびくともしない。
そりゃそうだ。押しつぶす重力の向きを、変えられるんだから。
私はすぐに重力魔法を解く。
狐面がこちらをじっと見つめてくる。もう終わりなのかと。
「なわけないじゃん?」
バッ……! と私は飛翔魔法で回避する。
……なにから?
頭上から落ちてくる、隕石からである。
「!?」
お面越しに、狐面が驚いてるのがわかった。
巨大隕石が、凄まじいスピードで落ちてくるのだ。
狐面のいる場所めがけて。
ズドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
諏訪湖の水が一瞬で消し飛ぶ。
衝撃波が発生したはずだけど、諏訪湖の周りの建物は無事だった。
『マスター、結界で諏訪湖周辺を囲っておきましたよ』
真理が予想される被害範囲を計算で割り出して、被害が出ないように結界を張ってくれていたのだ。
結果、衝撃波は拡散されることはなかったというわけ。
『……はう♡ 真理姉ちゃん……かっこよき……♡』
天理はお姉ちゃんの有能っぷりにメロメロのようだった。
うんまあ、この子こういう子なんだって、最近判明したんだよね。
「どういう……事だ……」
水が消し飛んだ、諏訪湖。
その中心に、狐面が倒れていた。
「あら、まだ生きてるんだ。タフだね」
だが狐面はその場から動けないようだ。
お面にヒビが入っている。
「われは……ぬしの魔法の向きを変え、攻撃が当たらないようにしたのに」
「確かに重力魔法は、それで防いだよ。でも……君は隕石を防げなかった。なぜなら」
『お前の能力は、【敵の攻撃の向きを変える】能力で、あくまで向きを変えられるのは【敵の攻撃】に限定されてるからだぁ……!』
真理ちゃんノリノリで、お母さんのセリフを奪っていった……。
「真理が言ったとおり、君は意志を持った攻撃の向きしか変えられない。だから、無意識で行われる現象には、能力を適用できない」
パンチで発生した雨には、意志がない。だから向きを変えられず、びしょ濡れになっていたのだ。
「……そうか。ぬしは重力魔法で、われを攻撃したのではなかったんだな」
「そ。私がやったのは、魔法で隕石を引き寄せただけ」
重力魔法の向きは変えられても、攻撃ではない隕石の落下は、防げない。
『ちなみに隕石が正確に狐面に直撃するように魔法をコントロールしたのは、このスーパーシゴデキ最強無敵にかっこいいでき女の、この真理ちゃんです!』
『……はぅううう♡ お姉ちゃんかっこよすぎぃいい……♡』