Abandoned Prince Heals Enemy Soldiers – Chapter 11

第11話 捨てられ王子、救出される

ガタンゴトンという特徴的な振動で俺は思わず目を覚ます。

そこは列車の中だった。

それも動物を輸送するための車輌で、大量の藁が地面に敷かれている。

どことなく獣臭いのはそのせいに違いない。

「ここは……俺はたしか……」

「お? やーっと起きたねぇ」

知らない女性の声が聞こえて、俺はそちらに視線を向けた。

綺麗な人だった。

少し跳ねた藍色の髪を肩まで伸ばしている若い女性で、誰かに似ている。

瞳の色までは分からない。

暗くて分からないとかじゃなくて、糸目で瞳が見えないから。

ただ、とても臭かった。

「す、凄い酒の匂い……」

女性からは離れていても思わず鼻を覆いたくなる程の酒の臭いがした。

よく見ると、女性の手には酒瓶が握られている。

「あ、君も飲むぅ? これ、お姉さんのおすすめで超酔えるからマジ最高だゾ~」

「えーと、遠慮します。それよりここは? 貴女は?」

「列車だよ~。どこに向かってるのかは分かんな~い。お気に入りの酒場で潰れるまで飲んでたらここにいたんだよねぇ。ついでに自分が誰かも分かんな~い、なんつって。たはは」

酔っ払いって面倒だなあ。

「冗談だよぉ。だからお姉さんをそんな冷たい目で見ないでってば~。でも名前を聞く時は自分から名乗るもんじゃない?」

「まあ、それはそうですね。俺はレイシェルです」

俺が名前を名乗ると、酔っ払いの女性は今まさに中身を呷ろうとしていた酒瓶をピタッと止めた。

そして、酒瓶を置いてこちらを無言で見る。

その折りに糸目が開いて、藍色の瞳が俺をまじまじと見つめてきた。

微かに目が光っているような……。

「ふーん、君が噂の……。なるほどねぇ、大体今回の誘拐目的は分かったかも。大変なことになっちゃったなあ」

「え?」

「何でもな~い。あ、私の名前はアイルイン。アイちゃんで良いよ~」

「ああ、そうですか。よろしく、アイちゃん」

「お、おお。本当に初対面でちゃん付けしてくる子は初めてだなぁ」

アイルインが自分からアイちゃんって呼べって言ったくせに。

「まあ、助けが来るまで三人で仲良くしようね~」

「三人?」

「あれ? 気付いてない感じ? ほら、君のすぐ横で眠ってるゾ~」

言われてから気付いた。

誰かが俺の服の袖を握っており、静かに寝息を立てている。

「お、おお、可愛い……」

まるで天使のような少女が眠っていた。

毛先に軽いウェーブがかかったエメラルドグリーンの髪をしている少女だ。

問題はその格好。

俗に言うネグリジェという寝間着で、色々と透け透けで見えてしまっている。
 幼い容姿にネグリジェという犯罪臭漂う背徳的な格好だった。

「えーと、この子も拐われちゃったんですかね?」

「多分ね~。その子いっつも寝てるから、拐うのは簡単だったと思うよ~」

「知り合いですか?」

「知り合いっていうか、あたしの妹~。どう? あたしと同じでめっちゃ可愛いっしょ~」

「……妹。妹!?」

この天使のような少女の姉が、この酔っ払いということか!?

「あれ? なんか凄い失礼な反応されてない?」

「あ、いや、す、すみません。あんまり似てなかったもので」

「ま、そこはしゃあないかな。その子とは父親が違うし」

思ったより複雑な家庭なのだろうか。

深く突っ込むのも忍びないので、俺は少女を起こさないよう黙ることにした。

「ね〜ね〜。君ってさぁ、恋人とかいる感じ~?」

と思ったら、何故かアイルインがニヤニヤ笑いながら話しかけてきた。

しかも声が大きいのだ。

もし名前も知らない天使ちゃんが目覚めてしまったらどうするのか。

俺は酔っ払いの相手を少し面倒に思いつつも、無言でいるのも辛いので、適当に会話することにした。

「いますよ。自慢じゃないですけど、超絶美人な女性が二人です。あと恋人じゃなくて妻ですけど」

「二股してんだ〜? 浮気者~」

「公認です。あと二人には本気なので浮気じゃないです」

「ふーん? どんな人なの~?」

「え? そう、ですね……」

アイルインは知らない人だし、少しくらい惚気ても良いよな。

部下たちに惚気話をすると愛刀をもがれそうになるが、俺は純粋に自分の妻を自慢したいのだ。

「まず二人とも背が高くて、おっぱいがすっごく大きいです」

「うわー、男子サイテー」

「大事なことですよ。容姿って馬鹿にできないんですから」

第一印象は容姿で決まるし、第二印象は最初の印象に引っ張られて中々変わらない。
 俺は二人の容姿に魅力を感じているし、その上で二人の性格も好きだ。

「二人とも超優しくて、話も面白くて、一緒にいて飽きないですね。夜の方も積極的で不満もナシです」

「ほーん? ローズマリーも積極的なのは意外かも」

うん?

俺、ローズマリーの名前は出してないよな? なんで分かったんだ?

……ふむ。

「家族から見た二人はどんな感じなんです?」

「うーん。ママは無表情だけど、愉快な人かな。ローズマリーは堅物。だからぶっちゃけ、ローズマリーが結婚するとは思ってなかっ――あっ」

なるほど、やはりそうか。たしかに誰かに似ていると思ったのだ。

「初めまして、お義姉さん。貴女の義弟になるレイシェルです。あ、義父でもあるのか」

「義弟は良いけど、義父は嫌だなあ」

「なんで黙ってたんです? 知らないふりをして二人のことを聞いてきたりして」

「母親と妹が悪い男に騙されてたら嫌じゃん。ま、君が二人を本気で愛してることは分かったよ」

……ふむ。

冷静に考えてみたら、俺って結構最低なこと言ってなかったか?

「いや、あの、あれですよ? たしかに二人の容姿は好きですけど、別にそれだけじゃなくてですね?」

「あー、分かってる分かってる。私は眼が良いからさ、そういうのは分かるから安心して」

「ほっ」

どうやら俺が二人の身体だけが目的のゲスだとは思われていないようだ。

そりゃまあ、二人の身体をエロいとは思っていますよ?

でもそれだけじゃない。

ローズマリーはぬいぐるみとか可愛いもの好きでギャップ萌えするし、アルカリオンは無表情ながら感情が豊かで話していて楽しい。

決して二人の身体だけが好きなわけじゃない。

「あれ? ということは、こっちの天使みたいに可愛い子も俺の義妹になるわけですかね?」

「ん? あー、違う違う。うち七人姉妹だから。その子、精神面はともかく生きてきた時間的には君やローズマリーより年上だから、どっちかと言うと義姉じゃない?」

……まじか。

え、ちょ!! この子、ローズマリーより年上なのか!?
 実はちょっと『お義兄ちゃん』とか呼ばれてみたかったのだが……。

いや、ロリッ娘天使お姉ちゃんも有り、か。

「……君、私に思考を読まれていること忘れてないよね?」

「はっ!?」

「ま、別に良いけどさ~。っと、そろそろか。レイ君、もうちょっとこっち来た方が良いよ」

「え?」

「あーもう、良いから良いから」

「ちょ、力強くない!?」

アイルインが不意に立ち上がって、俺を無理矢理引っ張った。

しかし、アイルインは酔っ払い。

小柄でも人一人分、ついでに言うなら俺にしがみついている天使お姉ちゃんの重さを千鳥足で支えるのは無理だったらしい。

俺たちはそのまま転倒してしまった。

「おっとと、ごめんね~。――ありゃ」

「あー、えっと、意外と大きなものをお持ちで」

言っておくが、わざとではない。

うっかり何かに捕まろうとして、アイルインの思ったより大きなおっぱいを揉みしだいてしまったのだ。

断じてわざとではない。

「こらこら、意外とは失礼な。お姉さんこう見えてもスタイル良いんだゾ~」

近いからか、余計にお酒臭い。

でも、やっぱり近くで見ると本当に綺麗な顔立ちをしている。
 少しアルカリオンに似ているのは、やはり彼女の娘だからだろうか。

などと考えていたその時だった。

アイルインが俺と上下を逆転する形で覆い被さってきたのだ。

俺はビックリしてしまう。

「お、俺は既婚者ですよ!?」

「!? ちょ、違う違う!! そういうつもりじゃなくてさ!!」

その直後、俺たちの乗っていた車両の天井が破壊され、巨大な影が現れる。

ワイバーンだった。

そして、そのワイバーンの背から見覚えのある背格好の美女が俺の前に降り立った。

「レイシェル、無事か!?」

「あ、ローズマリー!! ――むぐっ」

「良かった、無事だったのだな!! 心配をさせるな、馬鹿者!!」

「お、おお、柔らかい……」

ローズマリーの大きなおっぱいに顔を埋められてしまう。

本当に柔らかい。でも少し苦しい。

「おうおう、お熱いね~。お姉さんが守ってあげなかったらワイバーンの下敷きになってぺしゃんこだったのに。そのお姉さんを無視するとはねぇ~」

「あっ」

「!? どうしてアイルイン姉上が!? しかもその隣にいるのはクリント姉上!?」

あ、天使お姉ちゃんの名前はクリントって言うのか。

名前まで可愛いな。

「って、そうだ!! レイシェル、今は時間がない!! 急いで帝都まで戻るぞ!! 母上を止めねばならん!!」

「え? アルカリオンを?」

“This is an emergency!! We’ll talk on the move!! Airlin-neue, please carry Clint-neue!!”

“Wha- Hey!?”

And so, I found myself riding a Wyvern, princess-carried by Rosemary.

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Afterword
A Trivial Little Story

Author: “Sessha, a samurai who yearns to be annoyingly pestered by a drunk, slit-eyed onee-san who occasionally opens her eyes.”

Reichel: “I just don’t get it anymore.”

For those of you who thought, “I want to prank a sleeping loli,” “Did Alkalion snap?” or “I get it,” please leave your thoughts, bookmarks, ★ ratings, and reviews.

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